定款とは?
株式会社の会社設立は、まず第一に定款を作成することからスタートします。
定款とは、「会社の組織・運営の根本規則」ですが、定款は、法律に反しない程度で自由に会社の組織・運営について定めることができ、株主や取締役等を拘束します。
株式会社を設立しようとする場合、設立の企画者であり設立事務の執行者である発起人が、定款を作成することになります。
定款の記載内容として、①絶対的記載事項、②相対的記載事項、③任意的記載事項があります。絶対的記載事項というのは、定款に必ず記載しなければならない事項で、その記載がないと定款全体が無効となります。
絶対的記載事項の内容は、
① 目的
② 商号
③ 本店の所在地
④ 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
⑤ 発起人の氏名又は名称と住所
⑥ 発行可能株式総数
相対的記載事項とは、定款に記載がなくとも、定款自体の効力は有効であるが、定款で定めないとその効力が認められない事項です。たとえば、設立にあたって現物出資をする場合や、あるいは株式に譲渡制限をつける場合などは、定款に記載する必要があります。
それ以外にも、会社法の規定に反しない限り、定款に規定することができますし、実際多数の事項が定款で定められています(任意的記載事項)。
最初に決める事
会社設立を行う場合、まず下記の事項を決定しなければなりません。
① 発起人を決定する
② 事業目的を決定する
③ 会社名(商号)を決定する
④ 本店所在地を決定する
⑤ 事業年度を決定する
⑥ 株式譲渡制限会社にするかどうかを決定する
⑦ 会社の役員構成を決定する
⑧ 資本金の額と、株主を決定する
例えば、山田太郎氏が、資本金900万円で日本料理店を開業しようと考えた場合、
① 発起人
山田太郎
② 事業目的
1 日本料理店の経営
2 前号に付帯する一切の業務
注)現に営業する予定もないのに、将来に備えて、事業目的を羅列している会社があります。しかし、上記のように事業目的を定めた場合でも、官庁の許認可の問題が絡まなければ、後に定款変更及び登記をせずに中華料理店、あるいは小売店等に業態変更しても会社法上、あまり問題はありません(もちろん定款変更して登記するのが原則ですが・・・)
③ 商号
株式会社 太朗
④ 本店所在地
東京都杉並区
⑤ 事業年度
毎年7月1日から翌年6月30日まで
注)上場しているような会社では、3月決算にして決算期を他社と揃え、総会屋対策を行っていますが、そうでなければ3月決算にこだわる必要はありません。個人事業者の法人成り等で、消費税対策を考える場合は、免税期間を考えて、資本金、事業年度を決定する方がよいでしょう。
⑥ 株主が投下資本を回収するには、株式を譲渡(売却)するしかありませんが、会社の側からは、見知らぬ第三者がある日突然、株主として議決権等を行使するのは困ります。株式会社は定款で、「当会社の株式を譲渡するには、当会社の承認を受けなければならない」などと規定し、株式譲渡制限会社を選択することができます。株式譲渡制限会社は、会社法上、従前の有限会社に準じた簡易な規制となっています。
⑦ 会社役員の構成
取締役 山田太郎
代表取締役 山田太郎
取締役の任期 5年(株式譲渡制限会社の場合、最長10年)
⑧ 資本の額
資本金 900万円(900株発行)
株主 山田太郎 900株 900万円
上記の中で、実務上一番問題になるのは、⑦と⑧です。会社法では、かなり自由に役員の人数等(会社の機関設計)を設計できます。従前の商法では、最低取締役3名と監査役1名が必要でしたが、現行会社法では、株式譲渡制限会社を選択した場合、取締役1名から株式会社を設立できます。また株主については、会社設立後の会社支配権の問題に直結するため、慎重に決定する必要があります。
参考 機関設計の典型例
<もっともシンプルな例> <取締役会設置会社の例>
株主総会 株 主 総 会
↓ ↓ ↓
取締役 取締役会 監査役
↓
代表取締役
※ すべての株式会社は、株主総会と取締役が必要です。
※ 株主総会の権限は、会社の意思決定に限られ、執行行為をすることはできません(執行は取締役)。
※ 取締役会設置会社でない会社では、株主総会は一切の事項について決議できる万能の機関です。
上記の事項を決定した後、定款の雛形を修正し、会社の定款を作成します。
定款の電子認証
定款作成後、電子署名を行い、法務省のオンライン申請をして、公証役場で認証を受けます。
このためには、Adobe社の acrobatというソフトが必要になります。
当税理士事務所は、定款の電子認証に対応しているため、印紙税4万円が節約できます。
定款の具体的な作成例
実際に定款を作成してみましょう。
自分で定款を作成する場合は、法務局のサイトから、申請書様式をダウンロードして、これをベースにしましょう。
ここでは、一番シンプルな場合である、取締役が一人の株式会社の定款を例にとります。
法務局のサイトから「01-1株式会社設立登記申請書(取締役が1人の株式会社の発起設立)」を選択して、「Word」をクリックしてダウンロードします。ダウンロードしたファイルを開くと、申請書類が一式表示されます。○○商事の定款の記載例がありますから、ここをご自分の会社に合わせて修正し、定款部分だけを別ファイルに保存します。
ここでは、株式会社 太朗の定款を実際に作成してみます。
商号 株式会社 太朗
本店所在地 東京都杉並区高円寺西一丁目1番1号
発起人 山田太朗
発起人住所 東京都杉並区高円寺西一丁目1番1号
設立時取締役 山田太朗
会社設立予定日 平成25年7月7日
資本金 900万円(一株1万円として、900株発行)
発行可能株式総数 3,000株(この場合は900株以上なら何株でもOK)
事業年度 自7月1日 至6月30日(通常1年間にします)
株式会社 太朗 定款
第1章 総 則
(商号)
第1条 当会社は,株式会社 太朗と称する。
(注)商号及び本店が同一の会社が、既に存在する場合には、同一の商号で会社をその場所に設立することができません。
(目的)
第2条 当会社は,次の事業を営むことを目的とする。
1 日本料理店の経営
2 前号に附帯する一切の事業
(本店の所在地)
第3条 当会社は,本店を東京都杉並区に置く。
(注)定款に定める本店所在場所は最小行政区画まででも構いません。ただし,その場合には,発起人の過半数により,「○丁目○番○号」まで含んだ本店の所在場所を決定しなければなりません。
(公告の方法)
第4条 当会社の公告は,官報に掲載してする。
第2章 株 式
(発行可能株式総数)
第5条 当会社の発行する株式の総数は,3,000株とする。
(株式の譲渡制限)
第6条 当会社の株式を譲渡するには、当会社の承認を受けなければならない。
(株主名簿記載事項の記載又は記録の請求)
第7条 当会社の株式取得者が株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求するには,株式取得者とその取得した株式の株主として株主名簿に記載され,若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人が当会社所定の書式による請求書に署名又は記名押印し,共同して請求しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず,利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令に定める場合には,株式取得者が単独で株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することができる。
(質権の登録及び信託財産の表示)
第8条 当会社の株式につき質権の登録又は信託財産の表示を請求するには,当会社所定の書式による請求書に記名押印し,これを提出しなければならない。その登録又は表示の抹消についても,同様とする。
(手数料)
第9条 前2条に定める請求をする場合には,当会社所定の手数料を支払わなければならない。
(基準日)
第10条 当会社は,毎事業年度末日の最終株主名簿に記載された議決権を有する株主(以下,「基準日株主」という。)をもって,その事業年度に関する定時株主総会において権利行使すべき株主とする。ただし,当該基準日株主の権利を害しない場合には,当会社は,基準日後に,募集株式の発行,合併,株式交換又は吸収分割等により株式を取得した者の全部又は一部を,当該定時株主総会において権利を行使することができる株主と定めることができる。
2 前項のほか,株主又は質権者として権利を行使すべき者を確定するため必要があるときは,取締役の決定により,臨時に基準日を定めることができる。ただし,この場合には,その日を2週間前までに公告するものとする。
(株主の住所等の届出)
第11条 当会社の株主及び登録された質権者又はその法定代理人若しくは代表者は,当会社所定の書式により,その氏名,住所及び印鑑を当会社に届け出なければならない。届出事項に変更が生じた場合における,その事項についても同様とする。
(募集株式の発行)
第12条 募集株式の発行に必要な事項の決定は株主総会の特別決議によってする。
第3章 株主総会
(招集)
第13条 当会社の定時株主総会は,事業年度末日の翌日から3か月以内に招集し,臨時総会は,その必要がある場合に随時これを招集する。
2 株主総会を招集するには,会日より1週間前までに,株主に対して招集通知を発するものとする。
(議長)
第14条 株主総会の議長は,社長がこれにあたる。社長に事故があるときは,あらかじめ社長の定めた順序により他の取締役がこれに代わる。
(決議)
第15条 株主総会の決議は,法令又は定款に別段の定めがある場合のほか,出席した議決権のある株主の議決権の過半数をもって決する。
2 会社法第309条第2項に定める決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。
(議決権の代理行使)
第16条 株主又はその法定代理人は,当会社の議決権を有する株主又は親族を代理人として,議決権を行使することができる。ただし,この場合には,総会ごとに代理権を証する書面を提出しなければならない。
第4章 取締役
(取締役の員数)
第17条 当会社の取締役は1名以上とする。
(取締役の選任)
第18条 当会社の取締役は,株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の数の3分の1以上の議決権を有する株主が出席し,その議決権の過半数の決議によって選任する。
2 取締役の選任については,累積投票によらないものとする。
(取締役の任期)
第19条 取締役の任期はその選任後5年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。
2 補欠又は増員により選任された取締役は,他の取締役の任期の残存期間と同一とする。
(代表取締役及び社長)
第20条 当会社に取締役を複数名置く場合は、取締役の互選により代表取締役1名を定め、代表取締役をもって社長とする。
2 当会社におく取締役が1名の場合は、その取締役を社長とする。
3 社長は、当会社を代表する。
(報酬及び退職慰労金)
第21条 取締役の報酬及び退職慰労金はそれぞれ株主総会の決議をもって定める。
第5章 計 算
(事業年度)
第22条 当会社の事業年度は年1期とし,毎年7月1日から翌年6月30日までとする。
(剰余金の配当)
第23条 剰余金は,毎事業年度末日現在における株主名簿に記載された株主又は質権者に配当する。
第24条 当会社が,株主に対し,剰余金の支払いの提供をしてから満3年を経過したときは,当会社はその支払いの義務を免れるものとする。
第6章 附 則
(設立に際して出資される財産の価額)
第25条 当会社の設立に際して出資される財産の最低額は,金900万円とする。
(最初の事業年度)
第26条 当会社の第1期の事業年度は,当会社成立の日から平成26年6月30日までとする。
(発起人)
第27条 発起人の氏名,住所及び発起人が設立に際して引き受けた株式数は,次のとおりである。
東京都杉並区高円寺西一丁目1番1号 山田太朗 普通株式900株
(注)発起人の引受株式数の記載が定款にあるときは,会社法第32条第1項第1号の事項に係る発起人の同意書を申請書に添付する必要はありません。この場合,申請書には,「○○は定款の記載を援用する。」と記載してください。
(設立時取締役及び設立時代表取締役)
第28条 当会社の設立時取締役及び設立時代表取締役は次の通りとする。
設立時取締役 山田太朗
設立時代表取締役 山田太朗
(定款に定めのない事項)
第29条 本定款に定めのない事項については、すべて会社法その他の法令の定めるところによる。
以上,株式会社 太朗の設立に際し,発起人 山田太朗は、電磁的記録である本定款を作成し、電子署名する。
平成25年7月1日
発起人 山田太朗
法務省のサイトからダウンロードした定款の記載例を修正した箇所は、フォントの色がブルーの箇所です。機械的に会社を設立するだけなら、修正箇所はそれほど多くありません。
単純な会社設立代行の場合
メールのやり取りだけで、株式会社を設立する事務所等は、下記の事項を依頼者からヒアリングし、雛形を修正して書類をつくっているだけです。フォーマットから外れると、別料金を請求する行政書士等もいますので、ご注意ください。
商号 株式会社 太朗
本店所在地 東京都杉並区
発起人 山田太朗
発起人住所 東京都杉並区高円寺西一丁目1番1号
設立時取締役 山田太朗
会社設立予定日 平成25年7月7日
資本金 900万円(一株1万円として、900株発行)
発行可能株式総数 3,000株(この場合は900株以上なら何株でもOK)
事業年度 自7月1日 至6月30日(通常1年間にします)
もちろん、会社は正確に設立されますが、それだけで本当に大丈夫ですか?
資本金が900万円なのもそれなりの意味があります。
税理士事務所の当然の常識は、他士業の事務所の常識とはかぎりません。
・・・設立後3ヶ月で、最初の決算に直面する会社設立も経験しています。
その他士業の事務所は、個人事業主という選択肢も提示していますか?