事業手段として事業形態はどうするの?

会社の設立というと、株式会社の会社設立が真っ先に頭に浮かびます。平成18年の会社法改正で、有限会社法が廃止されてからは、特にその傾向が強くなりました。株式会社とは、仕組みをざっとでも理解しておくことが必要です。

そもそも会社とは何ですか?

会社とは、営利社団法人を意味します。この中で「営利」というのは、単にビジネスを行うという意味ではなく、ビジネスを行ってその得た利益を株主に分配することまで意味します。つまり、会社に利益が出れば、株主に配当という形でその利益を還元する必要があります。配当をしないで、会社内部に利益を溜め込んでいると、追加的に課税(留保金課税)されるリスクがあります。

また、「法人」ですので、会社自身の名において権利を有し、義務を負うことになります。つまり会社の名前で契約ができるということです。ただし、有限責任の有無により、会社の構成員(株式会社の場合は株主、その他の会社では社員といいます)の責任の範囲が異なってきます。

株主は会社の借金に返済義務を負いますか?

株主は、株式についての払込という形で会社に出資する義務を負うだけで、会社債権者に対してなんら責任を負いません。証券取引所で株式を買って、その購入した上場会社がその後巨額の負債を抱えて倒産したとしても、株主は、その所有する株式が紙切れになるだけで、倒産した会社の巨額な負債について個人財産を提供する必要がないのと同じです。

ただし、中小企業の場合は、法人格の濫用または形骸化が認められる場合、債務者から訴訟が提起され、裁判に負けると、会社の債務を株主が負担しなければならない場合も出てきます。

また、合名会社の社員と、合資会社の無限責任社員は、会社倒産時、会社の債権者に対し、無限の人的責任を負うことになります。なお、平成18年の会社法で新設された合同会社の社員は、全員が有限責任社員なので、定款記載の出資の額までしか責任を負いません。

取締役とは何の事ですか?

会社では、最高の意思決定機関は、株主総会です。つまり、株主が会社の所有者です。会社の所有者である株主から、会社経営を委任された人が取締役です。取締役は株主から経営を委任されているに過ぎないので、株主は株主総会で取締役を選任、解任できます。

従来、株式会社では、取締役は3名以上、監査役は1名以上必要でしたが、平成18年の会社法で、取締役1名以上から設立可能になりました。会社の特徴に応じて、さまざまな機関設計が可能となりました。

取締役が、法律または定款に違反し、あるいは善管注意義務や忠実義務に違反して会社に損害を与えた場合は、会社に対し、損害賠償責任を負います。さらに、取締役がその職務を行う際に、悪意又は重大な過失があった場合には、会社以外の第三者を保護するため、第三者(典型的には債務者)に対して特別な責任を負うことになっています。

中小企業では、株主=取締役=会社の実態が多いかと思います。しかし、万が一、会社経営がうまくいかなかった場合には、会社債権者が、会社=取締役=株主として、債権回収のため、取締役(名目的な取締役、登記簿上の取締役を含む)に対して広く訴訟を提起している実態があります。

会社設立の損得はどうですか?

会社設立により信用度がアップします

一般的に、個人事業主、合名会社等よりも、株式会社形態の方が、規模が大きなイメージがあります。業種によっては、取引先が、個人事業主と取引しない場合もあります。

会社設立により責任限定されます

個人事業主等は、その債務についても、個人の財産を投げ打って返済しなければなりません。株式会社の株主は、法律上は、その出資額までしか責任を負いません。

会社設立により税制上のメリットを享受できます

個人事業の場合は、所得税は超過累進税率で課税されます。会社の場合は、税率が一定です。また、事業所得から給与所得になり、給与所得控除により結果的に「経費の二重控除」となります。

また、退職時には、退職金を税制上有利な損金で計上できます(個人事業主では、経費になりません)。

一方、会社設立によりコスト上昇も

会社設立には、法務局への登記が必要なため、登録免許税等がかかります。また、法人税の申告は、個人の確定申告に比べて、かなり難度があがります。知識のない方には、独力での決算・申告はまず不可能ですし、できたとしても、素人の作成した決算書・申告書は、税務署や銀行がみれば一目でわかります。

さらに、会社は、社会保険の強制適用事業所です。個人事業の場合は、一部の事業を除いて労働者5人以上が強制適用事業所です。社会保険の会社負担分は税金以上に大きな負担になります。

また、報道によりますと、厚労省は低年金者の発生を防ぐため、所得税を源泉徴収している国税庁からデータを得て、所得税を従業員に代わって納めている事業所をチェックするとの事です。所得税を払っている事業所は246万社あるのに対し、日本年金機構が厚生年金保険料を徴収しているのは180万社にとどまっており、国税庁が管理する企業の納税情報を使って未加入事業所をあぶり出し、指導を強化する方針を決めたようです。日本年金機構は「納税はしていても、保険料を納めていない」約70万事業所から絞り込み、平成27年春以降、立ち入り調査を始め、従業員数や賃金台帳、出勤簿などを調べ、加入義務がある事業所に早期加入を促すと、の事なので、個人事業主が節税目的で会社設立をお考えの場合は、注意が必要です。

なお、2019年4月の産経新聞の報道では、「厚生年金の加入要件を満たしながら、国民年金にしか入っていない労働者が約156万人に上ることが、厚生労働省の推計で分かった。厚生年金に加入しないと将来の年金額は少なくなる。平成29年の国民年金の加入者に対する調査で就業状況を基に推計した。厚生年金は、全ての法人事業所と、従業員5人以上の工場など個人の事業所(一部業種を除く)に加入義務がある。保険料率は18・3%で、企業と従業員が折半する仕組み。だが保険料負担を嫌がり加入手続きをしない企業もあり、30年9月末時点で約40万事業所が加入逃れの疑いがある。」とされています。